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大阪高等裁判所 昭和61年(ラ)278号 決定

申立人 竹久成子

相手方 竹久博夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙申立書及び申立補充書に記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

当裁判所も、原審判と同様、抗告人の相手方に対する婚姻費用の分担の申立は理由がないのでこれを却下すべきものと判断する。

その理由は、次に訂正、付加するほかは、原審判理由説示のとおりであるのでこれを引用する。

1  原審判2枚目表3行目冒頭の「2階」を「1階」と、13行目の「同年3月以降同年12月分まで」とあるのを「同年3月以降翌年5月分まで」と各改める。

2  同5枚目裏3行目から4行目にかけて「前後の見境いなく預貯金を持ち出し、一方では相手方の承諾を得ることなく」とあるのを「相手方の承諾を得ることなく、一方的に預貯金を持ち出し」と、7行目から8行目にかけて「無思慮無分別な」とあるのを「一方的な」と、13行目から14行目にかけて「約700万円余」とあるのを「約776万円余」と各改める。

3  同11枚目9行目表冒頭〈2〉の「しかし、」以下、12枚目裏7行目末尾の「生じないという外はない。」までを次のとおり改める。

「しかしながら、前記2で認定したとおり、抗告人及び相手方が別居するに至つたについては、たしかに、抗告人の右動機を形成するについて、相手方においても一部その責に帰すべき事由があつたものであることは否定し得ないが、他方、抗告人においてその不平不満を持つに至つたことが直ちに別居に結びつくという事情であつたものとは認められず、これについては相手方と十分に話合いをするなどして相互の理解を深め、右不平不満の解消を図っていくべき努力が必要であつたものというべきところ、抗告人は、かかる十分な努力をしたとの形跡の認められないまま、一方的に、しかも、前記預貯金をすべて持ち出す等、計画的とも思えるような方法で事を運ぶに至つているものであつて、右別居の状態が作り出されるに至つた直接的かつ主たる責任は、抗告人の側にあつたものといわざるを得ず、これら事情を考慮すると、相手方の婚姻費用分担額は通常の場合に算出される分担額より相当額減縮されるのが相当である。よつて労研方式計算において適用される抗告人の消費単位については、これを半減することとし、その上で相手方の負担額を試算すると、相手方の1か月あたりの負担額は別紙計算書アないしウ記載のとおりとなる。そこで、これら計算及び前認定の諸事情を勘案すると、1か月あたりの相手方の負担額は、昭和60年3月から12月までは11万7000円、同61年1月から4月までは9万5000円、同年5月からは9万8000円とするのが相当である。

以上のとおり、労研方式計算により、本件別居に至るについての申立人の有責性を考慮した場合の本件申立時である昭和60年3月以降同62年4月までの相手方が負担すべき婚姻費用の分担額は、別紙計算書エ記載のとおり282万4000円となる。

4  ところで、抗告人は、前示のとおりの夫婦の実質的な共有財産であるというべき776万円余の預貯金等を持ち出し、そのうちの一部については既に払い戻しを受けて、同人ら親子の生活費に費消し、又は右生活費に充てるためいつでもこれを払戻せる状態にあるものと推認されるところ、本件記録によると、相手方は、本件審判前の調停の段階から、右抗告人が持ち出した預貯金の明細を明らかにすべき旨並びに右明細を明らかにしたうえでこれを原状に復さない限りは本件婚姻費用の分担には応じ難い旨表明していたのであるから、相手方としては右預貯金の一部(おそらくその半額程度のもの)の返還を求め、あるいは自己の婚姻費用の分担金の一部に充てる考えがあつたものと推認されること、それにも拘らず、抗告人は現在に至るまで右明細を明らかにしようとはしていないこと、さらに相手方は、二人の子女を引き連れて別居した抗告人の生活が仮に困窮するに至るならばいつでも右子女らを引き取つて養育しても構わない旨述べていることが認められ、これらの事情に照らすとき、右預貯金を抗告人に保有させ、費消可能な状態に置いたまま、さらに相手方の給与収入のなかから本件における婚姻費用の分担を命ずることは相手方に酷な結果を招くものといわざるを得ず、少なくとも右預貯金のうち実質上相手方の持分ともいうべき2分の1に相当する388万円余については、相手方が抗告人に対する本件婚姻費用の分担金として既にこれを支払つたものとして取扱うのが当事者間の具体的衡平にかなうものというべきである。

そうすると、抗告人においては、右持ち出しにかかる預貯金額の2分の1に相当する金員をもつて、相手方が本件婚姻費用の分担額として負担すべき前記282万4000円を優に賄うことができるものというべきである。

4  同12枚目裏10行目の「700万円」とあるのを「776万円余」と改める。

5  同13枚目表5行目冒頭から8行目末尾までの括弧内をすべて消除し、同9行目、10行目を次のとおり訂正する。

「右のほか、抗告人が当審において提出する証拠資料によつても、又一件記録を調べても、以上の認定判断を左右することができず、他に右認定判断を覆すに足りる的確な証拠はなく、右認定判断に反する抗告人の別紙抗告申立補充書第2及び第3の主張は採用し難い。」

そうすると、原審判は結局相当なものというべきであるので、本件抗告は理由がないので、これを棄却し、抗告費用は抗告人の負担として主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 廣木重喜 裁判官 諸富吉嗣 梅津和宏)

別紙〈省略〉

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